現代社会では、オフィスに縛られないノマドワーカーが増えてきています。彼らは、世界を旅しながら仕事をし、自由なライフスタイルを手に入れています。
今回は、ノマドワーカーであるKOHさんに、これまでの経験、そしてこれから海外で生活することに興味を持っている方へのアドバイスなどを伺いました。
〈聞き手=りおんせ(青楓館高等学院インターン)〉

【プロフィール】KOH
東欧ジョージアに住む、拠点型のノマドワーカー。美容師として独立後、世界の路上でのヘアカット旅がきっかけでトラベルライターを兼業。ITベンチャーのメディア事業部のヘッドハンティングを受け、ノマドワーカーとしてタイやジョージアへと移住生活を送る。現在は海外ノマド体験「ノマドニア」をはじめ、コワーキングスペース「ANO OFFICE」を運営している。
「行かずに死ねるか」きっかけは学校の講演会
ーー様々な国を旅した経験があるKOHさんが、海外に興味をもったきっかけはいつ頃でしたか?
最初に海外へ興味を持ち始めたのは、中学校の頃だったと思います。当時はアメブロが始まったばかりで、世界を旅するブロガーの記事を読んでいたんですよ。
そのブログでは自分の知らない世界の情報がいっぱいあって、読んでいるうちに、「自分の知らない世界をもっと見てみたい」という思いが少しずつ芽生えてきました。
このような中で、私にとってターニングポイントだったのが、中学校の1・2年生くらいのときに、「行かずに死ねるか」というエッセイ本の著者である石田ゆうすけさんの講演を聞いたことでした。彼は自転車で世界9万5000キロを1人旅した経験を持つ方です。
当時、体育館の大きなスクリーンで世界の大自然の写真を見て、私は圧倒されました。この講演会を通して、世界にはいろんな面白いことや日本とは違う文化があることを知り、世界を旅するということを実行する大きなきっかけとなりました。
高校を卒業する前には、「ニューヨークに行くから学校を辞める」と言って、無理やり時間を作って旅立ちました。当時はまだ「ノマド」という言葉はなかったので、バックパッカーや海外移住など、海外へ住むことに興味を持っていたんです。
石田さんの本のタイトル通り、「行かずに死ねるか」という気持ちが私を海外への旅に駆り立てました。
「行きたい」と思ったら行く。ノマドワーカーとして働くということ
ーー最初は海外に行くことが目的だったと思うのですが、なぜ海外に住もう・働こうと思ったのですか?
私はもともと、六本木のオフィスでライターの仕事をしていました。ライターはパソコンさえあればどこでもできる仕事なので、海外でも働くことができると考えたんです。
そのきっかけとして、テレビでとある国の美しい海を見て、「あそこに行ってみたい」と思ったことが挙げられます。当時の私はライターの仕事と並行して美容師の仕事もしていましたが、このときに美容室で働くことを辞めようと考えたんです。
本当は日本国内に魅力的な場所が見つかれば良かったのですが、当時の私にとって魅力を感じる場所は海外、具体的にはバンコクだと感じていました。
国内と海外を分けて考えるのではなく、自分に惹かれる場所があるという観点で、バンコクへ移住することに決めました。
ーー国によって働き方に違いはありましたか?
自宅で仕事をする場合、差は感じにくいと思います。一方で、コワーキングスペースなどの施設を利用したり、仕事の合間に外食をしたりする場合は、大都市よりもコンパクトシティの方が効率的に働きやすいです。
コンパクトシティは、住宅や商業施設など、生活に必要な施設が一定範囲内にまとまった都市のことで、日本だと福岡が例として挙げられます。特に自宅と職場、お気に入りのご飯屋さんの3つが近くにある場所を見つけられると、移動時間は減らせます。
大きな都市では、この3つの距離がどうしても物理的に遠くなってしまうので、小さな町のほうが働きやすいです。
ーー海外にいながら、仕事はどうやって獲得しているんですか?
僕は仕事を新規で探すというより、自分で仕事を作ることが多いです。例えば僕がコンサルとして長期的に支援していたプロジェクトがあったのですが、それは知人からの紹介でした。
また、自身が運営するコミュニティの中での仕事が募集がされていることもあります。このように自分のスキルに合わせて、相談が来るような仕組みを作ることが大切です。
もし仕事関係で頼れるコミュニティに所属していなければ、クラウドワークスなどのクラウドソーシングサービスを利用してみると、仕事関係の接点を作りやすくなると思います。
ーー今まで旅したなかで、おすすめの国や地域とその理由を教えていただけますか?
旅行の場合、ハワイがおすすめですね。ハワイは夕焼けが力強く、繊細で一番美しいと感じました。
また、気候帯が日本より多く、海ではサーフィンをする一方で山ではスキーをするという状態が一つの島の中で起きます。自然が豊かだからか、現地の方々の意識もかなりサステナブルです。
ハワイの朝は早く、カフェはなんと朝の6時から空いていて健康的に過ごせます。
移住の場合、タイのバンコクがおすすめです。バンコクは発展しており、海外ならではのストレスが少なく、快適に過ごせます。
また、ドン・キホーテなど日本のチェーン店が多くあり、日本の商品も手に入るので、僕はバンコクを「東京24区」と呼んでいます。
物価が安いのに日本と同じくらい発展しているのも特徴です。なので、刺激を求めて海外に行こうとしている人にとっては物足りないかもしれませんね。
ノマドの場合、通信インフラが充実し、コワーキングスペースが豊富なジョージアがベストです。通信速度は爆速ではありませんが、平均的にどこでも繋がります。
日本の人も住んでいて、多くの人が個人事業主またはフリーランスなので、仕事のコラボレーションも生まれやすいです。まだ発展途上の国なので便利なものは少なくて、必要なものがなければ自分で作ることが多いですが、それが面白いと感じます。
例えば、みりんが必要な場合はワインで代替するなど、創意工夫に溢れた生活が送れます。
「正直、英語はいらなかった」行って初めて知った海外事情
ーー海外で働くために、英語力ってどのくらい必要ですか?
意外かもしれませんが、英語が通じる国はそれほど多くありません。そのため、英語を極めるよりも、現地の第1言語を20単語程度を覚えることが重要だと思います。
アメリカで起業する場合などは英語力が必要ですが、多様な場所を旅する場合、その地域の言語が必要となります。そのため、まず自分が行きたい国によっては英語より第1言語は何なのかを調べて、それを覚えることが重要です。
世界のどこに行っても役立つ、習得しておくべき「20の現地語」
- ビール
- 数字の1~10
- ください
- お会計
- ありがとう
- 美味しい
- こんにちは
- さよなら
- はい
- いいえ
また、旅行などでいろいろな国に行ってみて、そこから勉強する内容を決めるのも良いと思います。
ーー英語が必要かどうか、体験してから決めるのが良いということですか?
そうですね。「必要性を感じたら勉強を始める」で良いと思います。赤ちゃんが言葉を覚えるのと同じで、人は必要に迫られると自然と覚えることができるんです。
日本だと英語を学校で学べるので、基本的には英語圏の小学生レベル以上の英語力があります。日本は英語をカタカナ表記で日常的に使っていることもあり、意外と生活可能なレベルの英語力が身についているんです。
英語を話せないと思っている理由は、語学力というよりも、メンタルブロックが原因であることが多いです。ネイティブレベルで話せる人は、思うように話せなくて、悔しい思いをした経験が背景にあると思います。
だからこそ、もし英語を学ぶモチベーションが湧かないのであれば、英語を話すしかないシチュエーションを実際に体験してみるという意味で一度海外に出てみてもいいかもしれません。
胸に秘めた想いを、実行する勇気が大事
ーーノマドワーカーになることのメリットは何でしょうか?
土地にしばられないことによる柔軟性ですね。自分のホームの土地が脅かされたときに、別の地に移って経済活動を再開できるんですよ。
住宅、食料、衣類は支援が受けられますが、仕事そのものは自力でやる必要があります。地震や台風をはじめとする自然災害や社会情勢など、いろいろな問題がある中で、ノマドワーカーはそうした状況に直面した際でも、これまでの経験からすぐ働く場所を切り替えられる強みがあると言えます。
ーーノマドワーカーになるのは難しいイメージがあると思うんですが、ノマドワーカーとして海外で働くために必要なものってあったりしますか?
日本で在宅勤務をするために必要なスキルだけで十分です。生活する環境が変わるだけなので、飛行機に乗って好きな場所に行って、普段通り働いたらノマドワーカーにはなれます。
意外と簡単なことではあるのですが、これを簡単にこなしていくためには、物事を客観的に見るというメタ思考が重要です。物事は難しく思えば思うほど、自分でハードルを上げてしまうだけなので、見方を少し変えてみて、できそうな道を探してみてください。。
また、『海外ノマド入門』という本に私自身も執筆者として参加し、ノマドワーカーとして海外で働くための情報をまとめた一冊に仕上がっています。
もし海外ノマドワーカーとしての働き方に興味がある人は、ぜひ手にとっていただきたいです。
ーー海外に憧れているけど、本当に海外で働けるのかと不安を感じている中高生にアドバイスをお願いします。
やろうと思えば100%できるので、まずは行動をして夢や目標を明確にすることが大切です。
ノマドワーカーとして海外で自由に働くことは、一見難しいと思われるかもしれませんが、実際には日本の大企業に勤める方が競争は激しいため、難易度は決して高くありません。
特に日本の人は本当に勤勉だと思います。よく働いて、ちゃんと時間通りに物事を行う傾向がありますから。そのポテンシャルが海外だと評価されやすく、採用につながる可能性もあります。
なので、日本の大企業だけでなく、外国の企業も視野に入れてみるといいんじゃないかなと思います。
また、できるだけ若いうちに海外へ行ってみることが大切です。ネット上で見た情報と現地の実態は全く違うことがあるため、ぜひ自分自身の目で確かめてみてください。
他にも企業訪問などは、若いほど受け入れてもらいやすく、中学生や高校生が優遇されることもあります。例えばGoogleなどの海外メガテック企業の社長に会いたいと思った場合、実際に連絡してみたらネタとして喜ばれるかもしれません。
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海外ノマド入門
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